2006年01月13日

前田建設ファンタジー営業部:ブルーオーシャン的CSRと見るべきか、あるいは日本ゼネコンの凋落と見るべきか

前田建設ファンタジー営業部」というのがこの本の題名である。著者でも出版元でもない、タイトルが「前田建設ファンタジー営業部」なのだ。そしてその奇抜な題名に負けないほど、この本は奇抜な内容を持っている。実在の大手ゼネコンでベイブリッジや福岡ドーム、アクアラインなどを手がけた前田建設は、2003年2月にファンタジー営業部なるものを社内に新設する。その目的は、談合や賄賂、バブル後の多額の負債とばら撒き型の公共事業に依存しているなどといった悪印象を和らげるためらしい。そのためには、他のゼネコンが進出しておらず、「奇跡手つかずのパイ」である分野に進出することと、それによって人びとに前田建設は他のゼネコンとは一味違うというイメージを植えることが必要となり、フィクションの世界の物件を「技術力」と想像力でできる限り現実に近い見積もりをするという一大プロジェクトが始まった。

初めてのプロジェクトは「マジンガーZの格納庫」の見積もり。物語はプロジェクトX的とマンガ・アニメ的世界観を意識した「個性的」二頭身キャラクターのノリで進むので読むのには困らない。要所要所に登場する専門用語には注釈があるし、ちゃんと普通の人にも読めるようになっている。

彼らはまずビデオで「格納庫」の全体像を知り、アニメの設定資料などと辻褄を合わせて、格納庫のある光子力研究所の所在地と地質を調べたり、材料や工期なども、各分野の専門家に問い合わせたり、専門的な知識をたくさん盛り込んだ、まるで本物のプロジェクトの見積もりを出すかのような真摯さを垣間見せる。最終的にはちゃんと受注して、見積もり通りの施工のできる結果を出せたと野次馬である私には思える(土木の話などちんぷんかんぷんなので確信はできない)。結局、アニメの設定資料などを見る限り、マジンガーZの基地はマジンガーZの本体とバリアーを除いて現代の技術で作れそうだという。

フィクション的なプロジェクトを立ち上げて、社会との関係を模索するという思考において、HONDAのASIMOやSONYのAIBOより遅れをとったけれど、前田建設は土木と言う得意分野を誰も想像したことも無い、フィクション内物件の見積もりとつなげたブルオーシャン的発想を成し遂げたのである。これは、社会との関係を模索すると言う意味ではきわめて良好なCSRというべきであり、企業の事業を説明すると言う面において優れたIRレポートであり、また宣伝と言う面では驚くべき新感覚といえる。正直、MBAのケーススタディに入れるべきだと思われる。

ただ、バブル期には月面ホテルの見積もりを出していた日本のゼネコンが、今では形無きアニメにその夢を託すしかないという事実に少しわびしいキモチになってくるのは私がペシミストだからなのだろうか?


参考文献
1.「第六大陸」:この本を読まずにして月開発を夢見るな!と言い切らせていただきます。第六の大陸である月面を開発する本格土木SF。
2.「前田建設ファンタジー営業部」のホームページ:「マジンガーZ」編およびに続編である「銀河鉄道999」、「グランツリースモ4」の話も読めます。
3.「空想科学読本」:アニメ・マンガの世界のキャラクターたちがいかに物理的に不可能なアクションをしているかについての話をくだくだと並べ立てる本。「前田建設ファンタジー営業部」はこのシリーズのアンチテーゼのようなものだろう。
4.「MMRマガジンミステリー調査班」:会社のプロジェクトとしてわけのわからん話に首を突っ込むチームの話(フィクション)なので、ノリとしてはファンタジー営業部と結構似ている。
posted by 白紙状態 at 16:54| ソウル 🌁| Comment(4) | TrackBack(0) | Mutter in the Reading Room | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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