2005年12月04日

ホンダ常勝のSED会議:どうしようもないほどジャーナリスティックで

(昔、べつのところ書いたやつを転載します…)


本書「ホンダ常勝のSED会議」の内容は、まず
1.アメホン(北米ホンダ)はえらい!、そして
2.アメホンの役員はエライ!、ホンダもえらい!、やがて
3.ACURA最高!、シビック最高!、ホンダ・インディー・チームエライ!
4.ホンダはこんなアゼンダを掲げているんだ!だからエライ!になる。


略歴によると、著者、大塚秀樹はいわゆるジャーナリストらしい。

本書のキーワードは、まずタイトルにもなっている、SED,すなわちS(販売)E(生産)D(開発)の三部門から集まった実務の人たちが激論を戦わせて新車を作っていくという会議だ。それから日本本社は大株主にすぎない、アメホンはそのコントロール下に入っているわけではなく、ある程度配当を済ませばOKという関係だという、「本社大株主論」、下取り価格維持のために「レンタカー会社にホンダの車は売りません」、トップダウン方式ではない、社論に基づきExecutivesが動く「トップが部下に踊らされる企業文化」、
現場、現物、現実の三つの現を重視する「三現主義」、ある工場の人員が1万人を超えると、ホンダ文化の維持が難しくなる経験則、「社会貢献」、「CSI(顧客満足度)重視」経営
などがある。


日本のほとんどのビジネス書に共通する話だが、本書も、ジャーナリスティックなくだらないセンセーショナルな書き方で、ただ登場人物(無論、実在のリーマン)をほめることに始終する。そしてそのほめる理由はたしかに理にかなっているかのようにみえる。だけど、ホンダという成功した会社で、その成功をもたらした人たちの戦略を建前のお題だけ採ってくれば、それはたしかに理にかなっているかのように見える。しかしそれは結果論に過ぎない。すべては偶然の技だったのかもしれないし、まったく関係のない部分での成果だったかもしれない。だけど本書は、まったくといっていいほどそういった面に目を向けない。

著者は、「ホンダは成功している。ホンダの社員はXXが大事だったという。だからホンダの成功はXXのおかげである」としか言ってないのだ。XXと成功には本当に緊密な関係性があるのか、そしていかにしてXXは成し遂げられたのかについての描写はないといってもいい。SED会議で殴りあったなどというのは、正直どうでもいい。(著者の名誉のために一言付け加えさせてもらうと、べつに殴り合いがメインなのではない)そんなのはドラマ化するとき必要なのに過ぎない。

世の中の企業はみな馬鹿ではないのだから、みんなあれこれ「理にかなった戦略」を導入する。それこそコンサルタントに数億円を払ってBPRだのCSRだのを繰り返す。だけど、各企業の差は縮まらず勝ち組と負け組みがでる。本当に読むに値するビジネス書とは、そこまで踏み込む必要がある。

たとえば「勝ち組ホンダの有能なホープだったイリマジリがセガに移ったが、なぜ彼はセガが負け組みになるのを防げなかったのか」というのがジャーナリスティックではない、もっとリアルな問題だろう。そして試行錯誤も述べたほうがいい。たとえば、自伝「jack」においてジャック・ウェルチ元GE会長は、自分の成功も失敗もそのプロセス面から分析し、なぜ成功したのかをはっきりと述べることができた。そういった自己客観視が日本の企業とビジネス書籍には足らないのではないかと私は最近思うようになった。

そして本書のスタイルは、たぶんわかりやすさを優先させ、そしておそらく先行するビジネス書に倣ったものだと思われるが、各登場人物の心理と会話をまるで「見てきたかのように」述べる。実際は、各人のインタヴューに基づいたと思うし、著者のそういった取材努力が足りないとおもうわけでもない。べつに韓国やアメリカやヨーロッパでマスタピースが量産されているわけでもない(量産されないからマスタピースだ)。

本書を含む日本のたいていのビジネス書籍は、思い込みや流行や決め付けと物語だけが存在し、本当に分析的か客観的か応用可能な書籍は見当たらない。無論、いわゆるフィールドブックだけが正しいといっているわけではない。支離滅裂になってきたが、私が言いたいのは、会話シーンと心境描写で一冊をでっちあげるのではなく、そして勝ち組企業の役員たちを「英雄化・善人化」するのではなく、真摯にビジネスという「生きた馬の目を抜く」フィールドを分析し、生き延びる方法を指南してほしいということだ。

私の最近のお勧めは「日本型「成果主義」の可能性」や、「スティーブ・ジョブズ-偶像復活」などがある。

べつに私はホンダが嫌いなわけではない。むしろ、好きといっていいほどだ。そして最後に付け加えておくと、本書は、ホンダの極端な北米重視は、諸刃の刀である、という指摘(162ページ)など、いちおう提灯持ちではないことを示そうとしている。


Further Reading
1.スティーブ・ジョブズ-偶像復活:虚飾を取り払っても立派な人物は立派であることを実証。
2.ホンダ神話:おそらく最強のホンダ本
3.おもしろいだけじゃだめなんだ。評論家山形浩生の文章、なんとなく私と同じことを言いたかってるっぽいし、短いので読んでみてください。
posted by 白紙状態 at 18:46| Comment(0) | TrackBack(0) | Mutter in the Reading Room | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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