2006年03月02日

「ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝」:ケチャップの皇帝萌え

まず本書は三つの意味で驚かせてくれる。まずは、バーナンキがFRB議長に指名されてから一ヵ月半で書き上げられたこと、帯に「日銀はケチャップを買え!」と赤い文字で書いてあること、最後にバーナンキってカッコイイけどハゲ気味だということ。

そして本書は、三つの意味で役に立つ。まず、現在進行形のマクロ経済の議論に加わるための基礎理論を丁寧に説明してもらえること、バーナンキという学者の研究をおさらいしてもらうこと、そして最後にどうやら日銀はケチャップを買うしかないと説得されること。

たしかに日銀はケチャップを買うべきだ。日銀はケチャップを買ったり売ったりしながらインフレーションをコントロールすべきであり、超長期的なデフレーション下の日本では、インフレーションを起こすことが重要である。そして日銀はハインツのケチャップではなく、もっと日本のケチャップを買うべきだ。結局、公共事業とか商品券ばら撒きとかと同じようにケインジアン的総需要(=GDP)の不足を補うためにインフレターゲッティングは成される。

だけどアメリカやEUなどの「なだらかなインフレ状態」にある国々がインフレターゲッティングを選ぶことと日本という稀有な「継続的デフレーション」の国がインフレターゲッティングを選ぶことではまるで意味が違うのではないかと私には思える。「なだらかなインフレ状態」からインフレターゲッティングに突入するのは、ある意味、庭園に元々ある木々の成長をコントロールして、手入れして、熊とか犬模様の木々を造りたいと思うことで、「継続的デフレーション」という状況下でのインフレターゲッティングは、森の木々をまず刈って、それから庭園を造ることからはじめるように聞こえる。そして私は、各個のインフレターゲッティングには賛成するが、デフレーション脱却のためのインフレターゲッティング(デフレ脱却)とその後のインフレターゲッティングは別物として扱われるべきであるような気がする。

無論、デフレーションは消費意欲を沈ませ、現金への信仰を深めるだけで経済が回らない原因になること自体が問題だ(そもそもそんな自転車操業みたいな資本主義がいけないという話になりかねないけど、まぁそれはエロとかグロとかが好きなフランスのバなんとかというおっさんに任せることにしよう)。

だからインフレターゲッティングを日本で実施するしかない理由は一つで十分なはず。インフレターゲッティングの一般的な効用を肯定するわけではないが、デフレ脱却が必要だという意味では、インフレを目標とする(ターゲッティング)派に私も属する。

デフレーションのせいで実質金利は(景気が加熱しているわけでもないのに)意味も無く高くなるばかりだが、名目金利をマイナス(借りれば借りるほどお金をあげる)にしたらモラルハザード、すなわち制度の意図せざる用途ができ得る。なので実質金利を下げる残された唯一の方法は、いったん安定したインフレを起こして名目金利をプラスに転化させた後に、デフレ期待のために冷え込んだ消費をインフレ期待を利用して促進させて、実質金利を下げる圧力源とする。金利が上がっているのに金利が下がるというシチュエーションを理解させるのがちょっと難しい。そしてインフレ目標を達成できない場合は、「ジャンクばかりいる日銀」(byバーナンキ)の市場調停力が無いと思われるor無いことがバレルのが問題かな?少なくともゼロ金利などという自縛的なシチュエーションを肯定できる日銀ってバカじゃないのか?という面では、ベン・ケチャップの皇帝・バーナンキさま萌えである。

だから最近、日本の新聞にちょくちょくでる「デフレのせいで日本人の金利所得はこんなに減ったのですよ」という論は実に簡潔で、インフレターゲッティングなしでもデフレ退治のための共有された理解ができあげることができそうだ。その場合、実質的にはインフレが公共のターゲット(目標)になることは十分ありえる。無論、その場合は、中央銀行の独立性など世論の前で踏みにじられることになるのだが。無論、このコンボが実際に成りたつのかはまた別の問題だけど、延々と続くデフレというおバカなシチュエーションよりはずっとましなはずだと私には思える。

そして思うに、この本は、バーナンキ萌え成分が足りないね。(断言)

さて、ではなぜ素人の私がこの本を買うことになったのかについて最後に書こう。まず、バーナンキ就任のニュース(「ヘリから金をばら撒け」発言に注目していた)を見てた母にインフレターゲッティングと90年代末の日本の商品券ばら撒きと何が違うのかと聞かれたとき、一応答えたえることはできたのだが、もうちょっと理論的な面からこの問題を知る必要性を感じたのと、本書の著者である田中秀臣が「世界で最初のバーナンキ本である」と書いているからだった。だから日本旅行の折に本書を買った。そしてまた下らぬものを買って来たと母に叱られた。まったく、世の中というものはうまくいくことが少ないのだ。それは経済学の世界でも、私の部屋の増え続ける本たちとの戦いでも、正しきことが成されることは少ないし、正しいことが正しい結果を導くこともまた少ない。というか、ジャンクだらけの日銀などといっている人(この場合は、著者の田中)が、日銀にインフレターゲッティングをやれというのはちょっとおかしいね。

日銀が公約を守る意思と能力が無いと思っている人たちが、日銀がバカ正直に公約を守ることが最低限の必要条件である理論を打ち出すってこと自体が矛盾じゃないのかな?日銀が公約を守らないor守れないと分かった場合は、ハイパーインフレがおき得る(可能性として)ことは否定できないはずなのだが…。




追記:田中秀臣という経済学者(のブログ)をなぜ知ったかと言うと、もちろん彼の冬ソナ論経由であったけどね。
posted by 白紙状態 at 02:40| ソウル 🌁| Comment(1) | TrackBack(0) | Mutter in the Reading Room | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
失礼いたします
Posted by エロ at 2008年01月25日 23:19
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